ルートファーム(新戸部 久典)・安平町

有機圃場面積:754a 認定機関・認定番号:北農会・第29001号-01
ピーマン、パプリカ、オクラ、モロヘイヤ、南瓜、大豆、小麦

みらいすくすく通信第461号・462号で紹介(2020.8)

 2013 年に独立したハラハチファーム中村さんの翌年に研修入りしたのが新戸部久典さん。旭川で出生後、親が転勤族ということで道内を転々と過ごし、札幌で就職。奇しくも自分も転勤族となり仙台、神奈川と移り住みました。結婚して子どもができ、野菜が育つところを子どもに見せたいと家庭菜園をスタートしたところみるみる惹きこまれ、その後関東で確立されており、農家のお手伝いをする「援農」というシステムに迷わず参加。援農先の有機農家から農業について一から学びます。仕事や会社には特に不満があったというわけではありません。それでも就農へと舵を切りました。新戸部さんを有機農家へと向かわせたもの、それは、
「好きだから」
 「見えないものを形にしていくということに、とても惹かれました。」家庭菜園の頃から、有機肥料に微生物等を加え発酵させるぼかし肥料を手作りし、発酵作業で美味しい野菜ができるという発見に、いろんな個性を活かしながら成果につなげていくまるで実社会のようだと、とても面白みを感じたそうです。神奈川時代は職場が東京で、電車往復4 時間の通勤生活でしたが、その時間を利用して、農業技術検定や土壌医検定といった資格を取得する程ののめり込みよう。今でも土づくりは帆立の貝殻といった有機物に納豆菌や乳酸菌を加え、いろいろな生き物を排除せず活かすことが基本方針。アブラムシを食べるテントウムシを放ち、雑草も収穫の邪魔にならなければと、さほど気にしません。
 神奈川での援農先では、消費者が有機農家を食べ支える「提携」という仕組みがあり、この関係づくりが素晴らしいと感じていたところ、似たような仕組みであるゆうきの実を知ったことも、北海道での就農動機になりました。念願の就農、楽しいことだらけでは?と訊くと「研修1 年目はとんでもなくきつかったです(笑)。重い根菜の手作業、そして北海道の広大さを思い知らされました(それまでは神奈川だったので)。」
 独立後は2 町程度(≒140m四方)の圃場での多品目栽培を目指し、すぐに始められるようにと研修2 年目にしてトラクター、ハウスを購入。ところが畑を探し始めると、空いている候補は予定よりずっと広いなんと7.5 町(≒270m四方)。しかも粘土質の土地のため品目が限られます。「土地代はもちろん、機械費用も増える。やっていけるのだろうか…。」(つづく)

 新人にして予定をはるかに超える7.5町(≒270m四方)の圃場を持つことを余儀なくされた新戸部さん。振り返るとこの時が精神的に一番キツかったそうです。「今年が5 年目で何とか活路を見出せそうなので、今となってはここにして良かったと思います。研修1 年目の広い畑で、手作業の経験をさせていただいたことに感謝しています」付けた屋号は根を意味するRooT Farm。RooT のT の大文字は土の下の根をイメージさせ、足元にある見えないものを大切にして、地域に根差したいという思いを込めました。
 有機農協へ出荷中の野菜はピーマン、セニョリータ、モロヘイヤがありますが本人的にはピーマンがイチ押しとのこと。「ピーマンは収穫と同時に剪定をします。どの枝を残していくかで育ち方が違うので、この対話がまた面白く、僕の性に合っています」他にも、畑にはオクラ、さくら豆、とっくり芋、ペポカボチャ、白カボチャ、ミニスイカ、ビミタス、札幌ナンバンなど、試験的な意味も込めて少量ながら多品目にトライしています。好評なものはゆうきの実にも登場するかもしれないので楽しみです。
 畑の奥に珍しい光景が。ミニトマトは収量を考えるとハウス栽培が一般的ですが、ロッソナポリタンという品種の有機ミニトマトを露地栽培しているのです。しかもわき芽を取らずに省コスト、省労力でアーチ型に伸ばしていくソバージュ(【仏】野性的な)栽培という放任スタイルを採用(わき芽はミニトマトがたくさん種を残そうと茎の根元等から出す芽で、一般的には栄養が散漫になるため適宜取ります)。「収穫期になると真っ赤なトマトのアーチになるんですよ! これが好きなんです!」まさに少年のように目を輝かせ身振り手振り教えてくれました。アーチの下には良い影響を与え合うコンパニオンプランツとして緑肥(麦)を植え、害虫も病気も見られません。ここでのミニトマトは有機加工しジュースにしています。ハウスに遮られず自由に育ったミニトマト。奥様とともに付けたという名前はその名も「星空ロッソ」。
「人間のユメのチカラ」
 人類が創りあげてきた文明や発明。その資本は、貨幣や土地、労働、モノであるという一面は確かにあるでしょう。しかし、世界を変えてきた本当の原動力は、「好き」に端を発し、既存の枠に囚われず、無限に広がっていく人間の「ユメ」のチカラではないでしょうか。東京へ満員電車で毎日往復4 時間揺られていた生活からわずか数年で、人はここまでできるという人間の創造力を、新戸部さん農場を訪れ目の当たりにしました。
 「星空ロッソ」。飲む者の予想を超える創造力に満ちた味が、また次の世代の遺伝子を刺激していくことでしょう。

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